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since Aug.2009.......「声低く語れ(parla basso)」というのはミケランジェロの言葉です。そして林達夫の座右の銘でもありました。                        ふだん私は教室でそれこそ「大きな声で」話をしている気がします。そうしないといけないこともあるだろうと思います。けれども、本当に伝えたいことはきっと「大きな声」では伝えられないのだという気がします。ということで、私の個人のページを作りました。
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しばらく、いつまでかはわかりませんが、ここを閉じることにしました。
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★原田正純編著 『水俣学講義』(日本評論社)読了。


熊本学園大学での講義録。後期の単位になっているようだ。2004年に出版されている。水俣にかかわった多くの人々、当該の患者、追い続けた写真家、ジャーナリスト、裁判の理論を構築した法学者、海洋生物学者、チッソの労働組合の委員長、そして医者として原田氏。
いま『水俣学講義』は第4集まででている。2008年に出版されている。まだ原田氏はこの講座を続けているのだろう。

いまもまだ水俣は続いている。水俣病が解決してない。しかしそれだけではない。例えば原田氏はカナダでの同様の有機水銀による環境汚染と「水俣病」の発病を、カナダ政府が「承認」していないことを自分たちの責任だという。なぜならカナダ政府が承認を拒否した根拠が、日本国内での水俣病の認定基準の弱さにあるからだ。水俣病は水俣病以前には存在していない。有機水銀中毒の症例は報告されているが、それは直接それを取り扱っていた労働者の発生した中毒で、環境が丸ごと汚染され、食物連鎖を通して魚介類に水銀が濃縮され、そしてまずは猫や海鳥に、そして農民や漁民のように環境と寄り添って生きている人々に襲いかかってきたものとしては、初めてのケースだからだ。
だから当初、認定基準も何もなかった。病因も何も分からなかった。どの患者が水俣病なのかも判断できなかった。そうした中で行政サイドが作り上げた患者本位ではない、むしろ、認定患者を減らすための認定基準生まれ、それを自分たちが覆せていないから外国での同様の症例で患者認定がされない事態が発生していると原田氏は考えている。だから何も終わっていない。むしろそれは全世界に拡大されている。カナダで、アメリカで、フィンランドで、アマゾンで、中国で、アフリカのビクトリア湖で。
さらに問題は日本に戻ってくる。以下、少し長くなるが引用する。

「いまはクジラやフカやイルカの水銀値が高いんです。……フィンランドのグループが7年から14年間、赤ちゃんが生まれたときから、お母さんの髪の毛と赤ちゃんをずっとチェックしたわけです。
つまり微細な水銀が胎内の赤ちゃんにどのような影響を及ぼすかと言う調査を、14年間続けている。その結果、運動機能はほとんど障害がない。つまり、水俣で私たちが胎児性と言っているような患者は一人も出てこなかった。しかし、細かく見ると、注意力、言語理解、あるいは記憶力に母親の頭髪水銀が10ppm前後で有意の差があるといったことが報告されております。世界はいまや、水俣みたいなレベルの話ではないんですね。微量の水銀が、特にお腹の中の赤ちゃんにどういう影響を及ぼすかということを、世界中の人たちが研究しています。それなのに日本は、いまだに症状が三つあったら水俣病というけれども、症状二つじゃいかんとか、そういう議論をしてるんです。本当に恥ずかしい。一番進まなければいけなかった日本の水銀研究が一番遅れています。……日本では、2,3年前、重症の胎児性の患者さんが見つかっています。」(p280)

最近、どこかで素敵な言葉を目にした。「人間は喜ぶために生まれてきた。」

そして2,3日前、「水俣学講義」を読んでいてこんな言葉が目に入ってきた。
「おばあちゃんが言うには、この子は人がくると嬉しいんだ、外も好きなんだ。特に天気が良い日に海に連れて行くと、本当に喜ぶ。ところが、喜ぶと身体が突っ張り出す。それで、あわてて家に入る。お医者さんたちは『この子は耳も聞こえず、目も見えず、何も分からない』というけれど、この子は喜んでいるんだと。私もそう思いました。生まれつき田中敏昌君の魂は土牢のなかに入れられていて、かすかに光が射すとそれに応えようとするんですね。そうすると今度は突っ張りが起きるわけでしょう。喜ぶことさえできないような身体で生まれてきた。本当にこんなことがあっていいんだろうかと思いました。」(宮澤信雄 『水俣学講義』p188)

私たちが生きている世界のことだ。今、生きている世界のことだ。


※ この田中君は胎児性の水俣病患者です。つまり胎児のときに有機水銀に侵された。
けれども胎児性の患者は非常に長い期間、水俣病だと認定されませんでした。原田氏は反省を込めて、述べています。もともと医学では胎盤は毒物を通さないと教わってきた。そう確信してきた。事実、無機水銀は胎盤を通らないし脳にも入っていかない。けれども有機水銀は胎盤を通り、脳も侵す。それを患者のお母さんたちから激しく指摘され、学んだそうです。「お父さんも、上の子も水俣病で、私もいっぱい魚を食べてきて、この子だけどうして違うなどと言うことがあるんだ」と。
水俣病の発症は第一号の患者が見つかる遙か以前にさかのぼります。その患者たちは当然、病院にいっていました。医者の目の前に水俣病患者がいた。けれども、それはこれまでになかった病気だと認識されず、しかもある地域に集中して発生しているにもかかわらず、それと認識されず、長い時間が経過してしまいました。
犬養道子の『見ないことが罪』という言葉を引用したけれど、「見えないこと」も罪なのかも知れない。
 先日、少しふれたことの続き。

  1日遅れてしまったが、1940年9月26日、フランスとスペインの国境地帯に広がるピレネー山中で服毒死した。ヴァルター・ベンヤミン、48歳。フランクフルト学派の社会学者であり、ユダヤ人であり、ナチスの迫害を逃れ、膨大な未完の原稿をかかえ、逃げまどった末の自死だった。
ベンヤミンは現在でも大きな大きな影響を与え続けている。私の書棚の中でも社会科学系の著作の中では、ベンヤミンの書いたものがもっとも量的に多いかも知れない。

ベンヤミンがピレネーにさしかかった頃、その山脈の近くには20世紀最大のチェロ奏者といわれるパブロ・カザルスもいた。
スペイン・カタルーニャ地方で生まれた彼は、フランコが軍事クーデターを起こし、スペインの政権を奪取。フランスに亡命。そのフランコがヒトラー、ムソリーニと親密な関係を築くなかナチスへ抵抗を続けた。フランコは1975年に没するまでスペインを独裁的支配下に置く。そしてカザルスは、1973年に没し、生涯スペインに戻ることができなかった。
そのカザルスの1939年録音のバッハの無伴奏チェロ組曲をもっている。彼はピレネー山麓の亡命地で、スペインを、カタロニアを想い、毎日、6曲ある無伴奏チェロ組曲を1曲ずつ弾いていたという。

ときどき、ふとベンヤミンが薬をあおったとき、カザルスは何をしていたのだろうと思うことがある。

受験の現代文を読んでいて、美術史家の若桑みどりの文章に出会った。少し引用しておこうと思う。
「私のように、幼い頃から価値体系が崩れたり、立て直されたり、また壊れたりしてきたのを見続けてきた世代の人間は、この絶望感から救われるには、人よりも少しずつ前後に長い時間の意識を持たなければ到底生きてはいけない。私が歴史家になったのは主として絶望感のためである。」
戦争を挟んで、巨大な価値観の転換が日本に起こった。その時代を生きてきたのだろう。そして若桑は自分の歴史研究についてこう述べている。

「私が、これらのことを鋭く感じるのは、私がレオナルドやミケランジェロのように、同時代人によってすでに崇拝されていた芸術家ではなく、同時代人とそれに続く数世代の人間によって低く評価された芸術家や、エポックを研究しているせいであろう。同時代人によって叩かれた芸術家が、時の流れを生き延びてわれわれのところに漂着するのは、とてもむずかしく、おそらく多くの人々が、死んで沈んでしまった。
(中略)
いわれない差別に苦しんだ無数の人々、すべてのふさわしい報いを受けなかった有徳の人や天才や不幸な恋人たちの『魂』はどこで救われるのか! 歴史は大いなる暗闇である。不具にされ、変形され、ときには惨殺された『真実』がルイルイと横たわっている。そこに行くにはコクトーの『オルフェ』のように、非常な苦しみをもって時間をさかのぼらなければならない。それが深海や宇宙の暗黒とことなることがあろうか?」

カザルスやベンヤミンは、同時代人によってすでによく知られた存在だ。
若桑の視界は、彼らの向こう側に、ハンナ・アレントの言葉を借りていえば「忘却の穴」に飲み込まれ、沈んでいこうとするものを、あるいは沈んでしまったものを捉え、掬い上げようとしている。それはたぶん、若桑自身のための歴史でもあるはずだ。そして彼女は、自分の研究と言葉と存在をつうじて、沈み込み、途絶えてしまいそうな人間の歴史の細い糸をつなげていこうとしていたのだと思う。
私もまたその糸を、その端っこをほんの少しだけ、誰かにつなげられたら、と願っている。


★ベンヤミンの本は岩波現代文庫から「パサージュ論」(全5巻)、岩波文庫から評論集として「暴力批判論」「ボードレール」、ちくま学芸文庫から「ベンヤミン コレクション」(全4巻)、「ドイツ悲劇の根源」(上・下)、平凡社ライブラリーから「子どものための文化史」などが出ている。
研究書は数知れない。
ベンヤミンの一つのテクストの詳細な読解を行っているものとして、岩波現代文庫から多木浩二の「『複製技術時代の芸術作品』精読」、今村仁司の「『歴史哲学テーゼ』精読」が出ている。
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